全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針

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全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針に関して、ご説明いたします。

イメージ生物学的製剤使用時の注意点は?

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推奨文
  • 抗TNFα抗体製剤は、妊娠中の全期間において使用は可能である。ただし、妊娠末期まで使用した場合は胎盤移行による児への影響が考えられるため、出生後6ヶ月に達する前のBCGやロタウイルスワクチンなどの生ワクチンの接種を控えた方が良い。(推奨度:B/同意度8)

現時点で抗TNFα抗体製剤に関して、催奇形性は示されていない。抗TNFα抗体製剤を妊娠末期まで投与されていた母体より出生した児に生後3か月目でのBCGワクチン接種を行ったところ、全身性の感染を呈して死亡したとの1例報告がある1)。そのため妊娠16-30週以降の抗TNFα製剤の投与を制限すべきとの意見もある2-4)が、実際には投与の継続が必要となることも多く、中断できないこともある。その場合には母親の治療を優先させ、妊娠22週を超えて抗TNFα抗体製剤を使用している場合には、BCG(通常は5ヶ月~7ヶ月に施行)やロタウイルスワクチン(通常は2ヶ月~4ヶ月に施行)などの生ワクチンは、生後6か月に達する以前の(投与された抗体の消失までの期間)の接種を控えた方が良い。

European League Against Rheumatism (EULAR)はインフリキシマブ、アダリムマブ投与は児に対する感染防御力の低下のため、妊娠20週以降中止したほうが良いとしているが、expertの意見として、必要なら全期を通じて使用できると記載している3)。EULARは胎盤通過性の少ないエタネルセプトに関しては妊娠30~32週までの投与を許容しているが、同じく胎盤通過性の少ないセルトリズマブペゴルの全妊娠期間を通じての投与についての安全性についてはさらなる症例数の増加が必要としている3)。最近Marietteらは、妊娠30週以降でのセルトリズマブペゴルの使用について、その安全性を報告している5)。新生児の易感染性に対してはBCG接種以外には新生児の感染リスクが特に高いとする報告もなく、その可能性は低いと考えられる。本研究班員の多数の意見として、①RA患者に関しては妊娠前よりなるべく胎盤通過性の少ないエタネルセプトやセルトリズマブペゴルでコントロールすることが望ましい。②妊娠20週で抗TNFα抗体製剤を中止して、症状が再燃して周産期予後の悪化を引き起こすことはデメリットが大きいため、薬剤の継続が必要な場合、抗TNFα抗体製剤を許容するとした。ただし、産科医と内科医、整形外科で十分な相談をしたうえで、方針を決定することが望ましい。

胎盤移行した抗TNFα抗体が新生児にどのような影響(易感染性など)を及ぼすかにはまだ十分な情報がない。サイトメガロウイルスなど胎児感染をおこす感染症への薬剤の影響も不明である。Fc部分を有し、胎盤通過性のある抗体製剤の妊娠期間中の長期投与の胎児・新生児への影響については、今後、大規模な症例の蓄積による情報収集が望まれる。一方、妊娠後に胎盤通過性の少ない薬剤に変更することはRAでは可能だが強く推奨するレベルではない。比較的新しい薬剤であるセルトリズマブペゴル、ゴリムマブについては妊娠期間を通じての使用経験の報告は十分ではない。

IBDで保険収載されている抗TNFα抗体製剤はインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブのみであるので、IBDの病状を評価しながら抗TNFα製剤の投与の継続を判断する。2015年に発表されたThe Second European Crohn’s and Colitis Organization. The second European evidenced-based consensus on reproduction and pregnancy in inflammatory bowel diseaseでは妊娠24-26週頃を目処に、インフリキシマブおよびアダリムマブの投与を中止することが提案されている6)。一方、2016年に発表されたカナダからのコンセンサスステートメントでは、通常、TNFα阻害薬は妊娠期間中、継続投与すべきとしながら、再燃リスクが低く、患者の希望などの強い中止理由がある一部の患者においては、妊娠22-24週を最終投与とすることを提案している7)

  1. <参考文献>
    • 1) Cheent K, Nolan J, Shariq S, et al. Case Report: Fatal case of disseminated BCG infection in an infant born to a mother taking infliximab for Crohn's disease. J Crohns Colitis. 2010;4:603-605.
    • 2) Calligaro A, Hoxha A, Ruffatti A, et al. Are biological drugs safe in pregnancy? Reumatismo. 2015;66:304-317.
    • 3) Gotestam Skorpen C, Hoeltzenbein M, Tincani A, et al. The EULAR points to consider for use of antirheumatic drugs before pregnancy, and during pregnancy and lactation. Ann Rheum Dis. 2016;75:795-810.
    • 4) Flint J, Panchal S, Hurrell A, et al. BSR and BHPR guideline on prescribing drugs in pregnancy and breastfeeding-Part I: standard and biologic disease modifying anti-rheumatic drugs and corticosteroids. Rheumatology (Oxford). 2016;55:1693-1697.
    • 5) Mariette X, Förger F, Abraham B, Flynn AD, Moltó A, Flipo RM, van Tubergen A, Shaughnessy L, Simpson J, Teil M, Helmer E, Wang M, Chakravarty EF. Lack of placental transfer of certolizumab pegol during pregnancy: results from CRIB, a prospective, postmarketing, pharmacokinetic study. Ann Rheum Dis. 2018;77(2):228-233.
    • 6) van der Woude CJ, Ardizzone S, Bengtson MB, Fiorino G, Fraser G, Katsanos K, Kolacek S, Juillerat P, Mulders AG, Pedersen N, Selinger C, Sebastian S, Sturm A, Zelinkova Z, Magro F; European Crohn’s and Colitis Organization. The second European evidenced-based consensus on reproduction and pregnancy in inflammatory bowel disease. J Crohns Colitis. 2015;9(2):107-124.
    • 7) Nguyen GC, Seow CH, Maxwell C, Huang V, Leung Y, Jones J, Leontiadis GI, Tse F, Mahadevan U, van der Woude CJ ; IBD in Pregnancy Consensus Group; Canadian Association of Gastroenterology. The Toronto Consensus Statements for the Management of Inflammatory Bowel Disease in Pregnancy. Gastroenterology. 2016;150(3):734-757.