全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針

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全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針に関して、ご説明いたします。

イメージ全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)、炎症性腸疾患(IBD)患者の妊娠容認基準はあるか?

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推奨文
  • それぞれの疾患が妊娠中に使用可能な薬剤(CQ9参照)でコントロールされており、寛解状態が維持されていることが妊娠容認基準の一つである。(ループス腎炎については、以下表1参照)(推奨度:C/同意度8)
  1. 1) 全身性エリテマトーデス(SLE)

    SLE患者に対する、妊娠容認基準としての寛解の状態や寛解維持期間に関しては一定の基準がない。個々の症例毎に十分なリスクアセスメントを行い、ケースバイケースで対応することが望ましい。

    妊娠中使用可能な薬剤(CQ9参照)で疾患がコントロールされており、一定期間の寛解持続状態であることが望ましい。妊娠前の寛解持続期間については、現在のところ一定の見解はないが、6ヶ月とする報告がある。活動性腎炎は、妊娠高血圧腎症・早産・低出生体重児といった妊娠合併症との関連が報告されているため、全身疾患活動性と独立に評価する必要がある1)-4)

    早産・早発型妊娠高血圧腎症の発症は、妊娠初期の高血圧、蛋白尿、妊娠前のeGFR<90 ml/min/1.73m2のループス腎炎症例でリスクが高かったとする報告がある5)。一方、ループス腎炎を有する症例であっても尿蛋白が0.5g/日以下ならば、非ループス腎炎のSLE患者と妊娠合併症に差が認められなかったという報告もある6)

    また、慢性腎臓病(Chronic kidney disease; CKD)では、GFR区分G1(eGFR>90ml/min/1.73m2),G2(eGFR 60-89 ml/min/1.73m2)でも、正常群と比較して妊娠合併症のリスクは高い7)。GFR区分G3以上、つまりG3a(eGFR 45-59 ml/min/1.73m2),G3b(30-44 ml/min/1.73m2),G4(eGFR15-29ml/min/1.73m2), G5(eGFR<15 ml/min/1.73m2)では、妊娠による腎機能低下・透析導入の可能性が高まる8)。(以下表、参照)

    CKDの重症度分類

    以上より、ループス腎炎を有する症例では、妊娠を推奨できる基準として非活動性ループス・尿蛋白が0.5g/日以下・GFR区分G1(eGFR>90ml/min/1.73m2)~G2(eGFR 60-89 ml/min/1.73m2)・妊娠中使用可能な薬剤で腎炎が安定していることが挙げられる。ミゾリビン、ミコフェノール酸モフェチルまたはシクロフォスファミドを服用中でないこと、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)を服用中でないことが望ましい。ただし、ARBおよびACE阻害剤の、腎保護作用による有益性が高いと考えられる症例では、十分な説明と同意のもと、妊娠成立まで使用することが許容されるが、その場合は、妊娠判明後はただちに中止する9)。GFR区分G3、G4、G5については妊娠することによるリスクを十分に説明した上で、患者の意思を尊重する。ただし、妊娠した場合は高次医療機関で厳重な管理を行う。

    ループス腎炎チェックリスト

    重症の肺高血圧(肺動脈収縮圧>50mmHgあるいは有症状)、進行した心不全を有する場合は、原則として妊娠は勧められない19)。SLEの肺高血圧症は、グルココルチコイド(ステロイド)や免疫抑制剤に反応しやすいことが知られているが、治療抵抗性の場合には妊娠は勧められない。また心不全に関しては、心機能分類としてニューヨーク心臓協会(New York Heart Association:NYHA)の心機能分類が用いられることが多い。比較的安全と考えられているNYHA 分類Ⅱ度以下では,妊娠が許容されることが多いが、NYHA 分類Ⅲ〜Ⅳ度では妊娠は勧められない10)

    抗リン脂質抗体症候群を合併する場合は、妊娠により血栓症のリスクが上昇し、流産、死産、妊娠高血圧腎症などの妊娠合併症のリスクが高まるとされる。妊娠は可能であるが、特別な管理が必要である(後述)。

    <参考文献>
    • 1) Huong DL, Wechsler B, Vauthier-Brouzes D, et al. Pregnancy in past or present lupus nephritis: a study of 32 pregnancies from a single centre. Ann Rheum Dis. 2001;60:599-604.
    • 2) Wagner SJ, Craici I, Reed D, et al. Maternal and foetal outcomes in pregnant patients with active lupus nephritis. Lupus. 2009;18:342-347.
    • 3) Imbasciati E, Tincani A, Gregorini G, et al. Pregnancy in women with pre-existing lupus nephritis: predictors of fetal and maternal outcome. Nephrol Dial Transplant. 2009;24:519-525.
    • 4) Bramham K, Hunt BJ, Bewley S, et al. Pregnancy outcomes in systemic lupus erythematosus with and without previous nephritis. J Rheumatol. 2011;38:1906-1913.
    • 5) Wagner SJ, Craici I, Reed D, et al. Maternal and foetal outcomes in pregnant patients with active lupus nephritis. Lupus. 2009;18:342-347.
    • 6) Piccoli GB, Attini R, Vasario E, et al. Pregnancy and chronic kidney disease: a challenge in all CKD stages. Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:844-855.
    • 7) Imbasciati E, Gregorini G, Cabiddu G, et al. Pregnancy in CKD stages 3 to 5: fetal and maternal outcomes. Am J Kidney Dis. 2007;49:753-762.
    • 8) 日本腎臓病学会.腎疾患患者の妊娠診療ガイドライン2017
    • 9) de Jesus GR, Mendoza-Pinto C, de Jesus NR, et al. Understanding and Managing Pregnancy in Patients with Lupus. Autoimmune Dis. 2015;2015:943490.
    • 10) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告):心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版).7-8,2010
  2. 2)関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)

    妊娠中使用可能な薬剤(CQ9参照)で疾患がコントロールされており、寛解状態であることが望ましい1)。妊娠中に使用不可能な薬剤を中止する場合は、催奇形性及び胎児毒性のリスクを考慮し、薬剤中止から一定期間あけてからの妊娠が望ましい。とくにメトトレキサート(MTX)は、流産率の上昇と催奇形性の点から一ヶ月以上の休薬期間が必要である(CQ9参照)。DAS28, SDAI,CDAIなどの総合的活動性指標(composite measure)2)で寛解、少なくとも低疾患活動性を維持してからが望ましい。

    <参考文献>
    • 1) Krause ML, Makol A. Management of rheumatoid arthritis during pregnancy:challenges and solutions. Open Access Rheumatol. 2016;8:23-36.
    • 2) Felson DT, Smolen JS, Wells G, et al. American College of Rheumatology/European League against Rheumatism provisional definition of remission in rheumatoid arthritis for clinical trials. Ann Rheum Dis. 2011;70:404-413.
  3. 3)炎症性腸疾患(IBD)(クローン病(Crohn’s Disease; CD)、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis;UC))

    妊娠中使用可能な薬剤(CQ9参照)で疾患がコントロールされており、寛解状態であることが望ましい。ただし寛解期間については、現在のところ一定の見解はない。クローン病の場合、活動期の妊娠は早産のリスクを上昇させることが報告されている1)2)

    クローン病の寛解の指標としては、IOIBD assessment scoreやCrohn's Disease Activity Index(CDAI)を参考にする。IOIBD assessment scoreが1点か0点かつ赤沈正常かつCRP正常であれば寛解である。CDAIは150未満であれば寛解である。寛解であれば妊娠可能であることを伝える。

    潰瘍性大腸炎の寛解期は、血便が消失し、内視鏡的に活動期の所見が消失した状態と定義されるが3)、主として臨床症状で判断することが多い。また、活動性についての指標は厚生労働省の臨床的重症度分類3)が参考となる。

    <参考文献>
    • 1) Baiocco PJ, Korelitz BI. The influence of inflammatory bowel disease and its treatment on pregnancy and fetal outcome. J Clin Gastroenterol. 1984;6:211-216.
    • 2) Miller JP. Inflammatory bowel disease in pregnancy: a review. J R Soc Med. 1986;79:221-225.
    • 3) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班):潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成28年度分担研究報告書 別冊.2-3,2017